脳死臓器移植Q&A
 決して許されない脳死からの臓器移植。命の尊厳を守るため、これからも訴え続けなければならない。脳死と診断された娘・有里ちゃんを1年9カ月看病した経験から、「脳死は人の死ではない」と訴える中村暁美さんを囲んで話した。

《出席者》
中村暁美(主婦、東京都)
井浦朝香(大本直心会副会長)
山下昌隆(人類愛善会神戸協議会事務局長)
司会=松本公夫(人類愛善会生命倫理問題対策会議事務局)  ※敬称略
 誰かが声にしなければ
松本公夫
松本公夫
人類愛善会生命倫理問題対策会議事務局
松本(司会) 中村さんにとっては本当に悲しいことで申し訳ないのですが、当事者に反対運動の表に出ていただいたことは本当に力強いことです。
中村暁美
中村暁美
主婦、東京都在住

中村 まさか自分がこういう話をして歩くとは夢にも思っていませんでした。ただ有里との1年9カ月間、私は一度も娘が死んだと思ったことはなくて、こんなに頑張ってきた娘の生を、死とされることに本当に納得がいかなかったのです。

井浦 先日、私の孫が脳死臓器移植について「人の命が助かるんだったら、いいじゃないの」と言うんです。「でも、生きている人から取るんだよ」と言ったら「えっ、死んだと同時に取り出すんじゃないの」と驚き、「それはダメだ」と言っていました。霊界の存在を説く大本では、死後の臓器提供もしてはいけないことですが、一般的には、死んだ人の臓器で誰かの命が助かるのなら良いことだと思う人も多いようです。
井浦朝香
井浦朝香
大本直心会副会長
実は、私も以前は、死んだ瞬間に臓器を取り出すのだと思っていました。しかし、中村さんの話を聞いて、まだ命ある段階で臓器を摘出すると知りました。言葉を変えると、人を殺すということですね。

山下 最初、テレビ愛知の番組で有里ちゃんが紹介されたのはどういういきさつですか。
山下昌隆
山下昌隆
人類愛善会神戸協議会事務局長

中村 初めは、ほかのお子さんを取材する予定でしたが、その子の調子が悪くなり、ちょうど入院中の有里に初めての外泊許可が下りた時でしたので、急きょ、有里を取材させてほしいと。兄弟も多感な時期だったので少し迷いましたが、東京では放映されないということで取材を受けました。その番組は、1時間の中で多臓器移植のために渡米した子の話題がほとんどで、長期脳死の子供については最後に少しだけでした。ところが視聴者から、「長期脳死って何ですか?」という反響が大きくなりました。そこで第2弾として、有里ともう一人の男の子と2人の、長期脳死児だけの2時間番組(ドキュメンタリー「この子は生きている」,08年5月)が制作放映されました。呼吸器を付けて寝ているようにしか見えない子供の顔色や唇の色などが分かり、画面を通してこのような状態を死としていいのだろうか≠ニ思っていただけたのではないかと思います。

松本 有里ちゃんを亡くされて社会的に活動を始められた訳ですが、人前に出ることは、勇気がいることだったと思います。

中村 世の中には長期脳死といわれる子供たちがたくさん頑張っています。その子たちが死≠ニされてしまうことが絶対に許せませんでした。世間の皆さんは、こういう子供たちがいることを知らないだけなので、とにかく声を出さなければと。そして、国会での改定法案審議の参考人招致などに出席するころ大本さんとのご縁を頂きました。出口紅教主さま(人類愛善会総裁)にお会いしたときに「有里ちゃんもママと一緒に頑張ってくれているんですよ」とお言葉をいただき、有里も一緒にがんばっている。ひとりでも多くの人に伝えたい≠ニいう思いでやってきました。
松本 心無いメールや中傷もあったとも聞きましたが、同じような立場の方からの反応はいかがでしたか。

中村 「勇気をもらった」とか、「自分も何かできないかと思って連絡しました」という方もいらっしゃいました。皆さん、今まで声にしたかったのにできなかったのです。表に出ることでわが子の臓器が狙われるのではないかという不安からです。私も、まだ有里が闘病中だったら、こんなに前面に出る勇気があっただろうかと考えます。
 真実を知ることが
松本 10数年前、人類愛善会・大本が脳死臓器移植反対運動を始めるとき、当時の出口聖子総裁(教主)は「脳死臓器移植は絶対にダメです」と結論から言われました。なぜダメなのかは、活動していくうちに徐々に分かってきたのです。

井浦 テレビでは、移植すれば助かるとしか放送しませんからね。生きているうちに摘出するという一番根本のところをマスコミは報道しないのですからね。

山下 脳死という言葉そのものが、そのために作られた言葉ですからね。

中村 そこを伏せてしまっているから「死んでいるんだからいいじゃないか」となってしまう。推進側は「愛の行為」「命のリレー」と、きれいな言葉を並べ立てています。反対にこちらは「脳死」という暗いイメージの言葉しか使わず、マイナスのイメージが出来上がっているんです。

山下 脳死と言っていますが、その人は生きてますからね。

松本 映像の中で、有里ちゃんも家に帰った時に涙を流しておられましたよね。

井浦 生きている証拠ですね。脳死状態でも、魂が働いているのだと思います。私はこういうことを絶対に訴えていかないといけないと思っています。

松本 最近、アメリカで発表されたことですが、植物状態の人に声を掛けて、脳の反応を画像で見るという実験をしたところ、何人かが反応していることが分かったそうです。イエスとノーの確認ができ、その装置を通じて会話ができたというものです。そう考えると、かろうじて残っている機能で意思を伝えようとしているんじゃないでしょうか。植物状態と脳死状態は、脳幹の機能があるかないかの違いということなので、脳死状態の人も反応できるかもしれません。

中村 有里も好きな曲をかけると、心拍数が上がりました。そんな時は楽しく聞いているのかな≠ニ感じ、私たち家族はそうして有里と会話していたのです。しかし推進側は、まるで家族がそれを喜びと感じてはいけないかのように、因果関係は医学的に証明されないと言います。昨年の法改定のころも、どんなに私たちが「脳死患者も生きている」と力説しても、初めから移植推進のレールが引かれていて、私たちの意見は反映されることはありませんでした。議員一人ひとりに話して回ったとき、涙を流して「脳死は死じゃないですね」と話していた議員が、当日の本会議場で、笑いながら脳死臓器移植を推進するA案に投票しているのです。すると拍手が起き、議場はお祭り騒ぎのようでした。私はどうしてこのような中で、こんな人たちによって、人の命の問題が決められなくてはならないのかと、心底から憤りを覚えました。

山下 素朴な疑問なんですが、医師は臓器提供するのでしょうか?

中村 ある方が、医師に「ドナーカードを持っていますか」と聞いたところ「今日は忘れた」とうやむやにされたそうです。脳死は死だ≠ニ推進する医師ほど、実際の怖さを知っているのだと思います。だからドナーカードを持ってないのだと。同じように、「臓器摘出するときに、なぜ麻酔をかけるのですか」という質問もうやむやにされたそうです。脳死の真実は伏せられて、知らされていないのです。私もいろいろなマスコミのインタビューを受けましたが、一番伝えたいところはカットされます。どのチャンネルを見ても「髪も伸びるし、ツメも伸びる、生きているんです」というところだけしか使ってもらえません。「臓器は社会資源」と言われたことなど、本当に社会に訴えたい部分はカットされました。ですから、これからはマスコミではなく、一人ひとりの方に話し、有里の映像を見ていただきたいと思ってます。それで真実を感じてもらって、「本当は違うんだ」と心が動けば、行動にもつながると思っています。
 一人ひとりの命を大切に
中村 私は「娘は生きている」と訴えていく中で、このことは一人ひとりの命の尊さを訴えているのだと思った瞬間がありました。臓器移植をすれば治る子供を持つお母さんに、ある記者が「もしあなたのお子さんが脳死になったら提供しますか」と質問したら、その方は「しません」とはっきりと答えました。それを聞いたときに私は、だったら「ください」と言わないでほしいと思いました。

山下 自分がその立場にならないと、分からないのでしょうね。神戸協議会で中村さんに講演(聴講80人うち一般20人)に来ていただいた時、皆さん衝撃を受けられ、ほとんどの方が涙ぐんでいました。しかし一方で、移植が必要という立場だったら、自分の身内にそれが起きてみないとよく分からないというのも正直なところのようでした。

中村 私もある記者から「有里ちゃんが移植が必要な子供だったらどうですか」と質問されたことがあります。実はその時、私もすごく葛藤があったんです。もしかすると「ください」と言ってしまうかなって。しかしそんなとき、松田達夫さん(人類愛善会生命倫理問題対策会議事務局長)から「有里ちゃんは死んだと思ってないのでしょう。だったら、生きている子から臓器をくださいと言えますか」と言われて、目が覚めました。ですから、私が逆の立場だったとしても寿命だったと受け入れて、脳死の子に「臓器をください」とは絶対に言わないです。多少なりとも迷った自分が確かにそこにいましたが、今は、自信を持って「もらえません」と言います。

井浦 先日、生命倫理の教材DVDを使った支部での勉強会に、脳死状態の母親を看病しているという一般の方が参加され、勇気をもらったと言われました。

中村 看護学校で話したとき、ある生徒から「授業で脳死のことは定義みたいにさらりと教わるだけです。話を聞いたおかげで、私は2つの命を大事にできる看護師になれるような気がします」と言ってもらいました。また、「看護師になった時、医師が移植側の話しかしなかったら、私はご家族に、こういう選択もありますと追いかけて行ってでも伝えます」と言ってくれた生徒がいて、本当に感動しました。「学校の授業だけでは、分からなかった」と話してくれました。また、ある小学校のPTA主催の会では、講演の前に実行委員の方から「参加者の中には移植で助かる子供もいるのに、そういう子供はどうするのかと思っている人もたくさんいます」と言われ、私はドキドキしながら有里との1年9カ月の生活を話しました。すると講演が終わって、「脳死状態の人は死んでいると思っていた私は間違っていました。とても臓器はあげられません」との感想をいただきました。

 許されない利己主義(われよし)
中村 脳死になるのは、ある日突然なんです。ですから、最初に運ばれる救急病院でどれだけ救命に力が尽くされたかが、脳死になるか救われるかに分かれる大きな要因となるのです。それが、臓器獲得のために脳死を増やそうと、賢明な処置をしないでいいという風潮になったらどうなるでしょう。救急の医師は全力を尽くしてくださっていると私は信じていますが、社会が、脳死、臓器移植という風潮になってくると大きな不安も感じます。

山下 臓器提供についての意思表示の方法が変わるそうですね。今までは、提供する意志のある臓器に○印をしていたのが、今後は、提供しない臓器に×印をするようになると。ということは、×印がないと全部提供することになるわけですね。そのことを知らないと、本当に危ないことになりかねませんね。

中村 日本人のどれだけの人が新しい法律で動き出すことを知っているのか疑問です。7月17日の施行に向けて、研究班がガイドラインを作っていますが、一般には難しくて理解できないようなもので、とにかく検討、議論しましたと言っているだけです。社会が弱いものいじめを堂々と認めている。弱いものを救おうという社会ではなく、税金の無駄使いだとか社会資源などと言って、弱いものには生きる価値がないと言っているのです。実際、推進派議員の間では、そういう言葉が飛び交っているんです。 母親であればだれでも、痛い思いをしてわが子がオギャア≠ニ生まれてきたときには本当に尊く、いとしいいのち≠セと思うはずです。それが母子愛、母性です。わが子が脳死であっても、心臓移植しなくては助からない子供でも、いとしいという気持ちは変わらないはずで、脳が機能していないからわが子のいのち≠あげますという母親はいないはずです。

山下 こんなことを続けていくと、人間同士の食い合い≠ノなってしまいますよ。

松本 どんどん物質的に考えていったら何でも発想できますから。教えの根本にある通り、利己主義、われよし強いもの勝ちが諸悪の根源だと思います。やはり神仏の存在、そこから生まれてくる命≠ニいうものをしっかりと感じていなければ際限がなくなってしまうと思います。

中村 脳死が死となれば、医療費補助はなくなり、弱い立場のものは切り捨てられる世の中になってしまいます。脳死状態の子供を抱えた家族は、社会の風潮や援助がなくなるかもしれないという思いの中で、辛い気持ちで生きていかなければならないのでしょうか。

松本 だからこそ宗教の立場から私たちが、もっと頑張らなければならないと思います。
 ノン・ドナーカードの普及を
中村 一番怖いのは、臓器をあげることがいいことで、あげないと悪いと社会全体が思ってしまうことです。改定臓器移植法施行の七月十七日を境に、脳死患者側が死んだものとされるような社会には、絶対にさせたくありません。

山下 改定前は15歳以下からの臓器移植は不可で、子供は守られていたのが、可能になりました。これはいろいろな問題を含んでくると思いますね。

中村 年齢制限がなくなると、移植推進の流れの中で世間の人がどう考えるのか心配です。「脳死の子がいるのに、なぜ提供しないのか」など、世間の視線や圧力もあるでしょう。良い方向には向かわないのは目に見えています。ですから家族は、声に出したくても、なかなか出せないという葛藤があります。

山下 7月に改定法が施行されることになった以上は、唯一の道としてはノン・ドナーカードの普及しかないですね。

井浦 お年寄りが、自分が死んだら臓器を提供して、それで葬式費用に回してくれという人がいるそうです。それを聞いた若い人は「どうせ死ぬのだから、いいね」と。そういう話を聞いたとき、ぞっとしました。

山下 街頭活動でもそういうことを言う人がいます。しかし、「おばあちゃんのは使い物にならないよ。あなたの子供さんやお孫さんの話をしているんですよ」と言うと、「それは大変」と反応してくれます。一般の人にどう伝えていくのか、そこが一番問題でしょうね。

井浦 霊界の存在を知らないと大変なことになりますね。

松本 この世で死んだら終わりと思ったら、何でもありの社会になりますよ。

中村 ある時、 教主さまが「中村さん、神仏はみんなご覧になっていますよ」とおっしゃてっくださったのですが、脳死問題も、今すぐ白か黒かはっきりしなくても、信じた道を訴えていけば必ず世の中にも分かる日がくると思えて本当に胸が熱くなり、勇気につながったのです。

山下 全国的に各地で講演されていると聞いています。

井浦 私の地元、埼玉もお願いしたのですが、数カ月先まで土・日は講演スケジュールがいっぱいで残念でした。

山下 講演会ではぜひ、中村さんの著書『長期脳死―娘、有里と生きた一年九カ月』(岩波書店)の購読をおすすめしたいですね。

中村 この本は、昨年の11月6日(出口なお大本開祖ご昇天の日・旧大本開祖大祭日)が発行日で、大本さんと深いご縁があったんだなと思いました。

井浦 東京本部でも関東教区の青松会員が、脳死状態の子供たちの希望がなくなってはいけないと頑張ってくれて、百冊を完売しました。熱意、まごころだと思います。

山下 神戸でも、ぜひ協力させていただきます。

松本 命の尊さについて考えさせられる本です。特に有里ちゃんの3人のお兄ちゃんの手紙には胸が詰まる思いがしました。

井浦 この本を読んで感じたのは、待っていてはいけない、とにかく伝えていくことが一番大事だと思いました。7月17日のノン・ドナーカード配布全国統一行動日を目指して、一致団結したいと思っています。

山下 これから3年間かけてこの法律を見直し調整していくことになるので、活動していけば反対に世の中も矛盾を感じ始めてくるんじゃないでしょうか。そのためにも、街頭に立つまでに、中村さんの本や青松会の教材DVDでしっかりと勉強して、確信を持つことが大事です。 神戸で3月5日に街頭活動をした際、立ち止まってくれるのが短く、伝えることの難しさも感じました。要点をまとめておく必要があります。先日、若い人に話をする機会があったので具体的に臓器が摘出された後、どういう状況で家族のもとに帰ってくるかということを話したところ、皆ゾクゾクッとしていました。ありのままを伝えると理解されやすいです。

松本 全国的に活動を広げなければいけませんね。特に、女性の口コミの力は大きいので期待しています。それと、宗教界の力も。

中村 大本さんは「脳死は死ではない」と一斉に動いてくださっていますが、他教団では「信徒の家族に移植を必要とする人もいるから大々的にできません」というところもあるようです。 反対に「大本のホームページを見て、世の中に訴えていくために、ぜひ私の教団でも話を聞かせてください」と言われたこともあります。

松本 これからますます広く、市民団体、宗教などが一緒になって活動していく必要があります。そういうことで、全国の皆さんのお力をぜひとも発揮していただきたいと願っております。 (2010年4月22日・人類愛善会東京本部で)
(C) 人類愛善会生命倫理問題対策会議事務局
〒621-0851 京都府亀岡市荒塚町内丸1
E-mail: seimeirinri@jinruiaizenkai.jp
(人類愛善会は、宗教法人・大本の教祖・出口王仁三郎によって大正14年に創立された社会活動団体です。「人類愛善・万教同根」の理念のもと、人種・宗教の違いを超えて、世界平和の実現をめざす諸活動を国内外で進めています。その中でも生命倫理問題対策会議は特に、脳死臓器移植反対や死刑制度廃止を求める活動などを進めています。)
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