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このままでは日本も〝臓器狩り社会〟に

「新臓器移植法を問うシンポジウム —小児の救命と脳死と移植 —」から

 昨年(2009)7月、臓器移植法の改定法案は、数々の問題が指摘されていたにもかかわらず、十分な審議が尽くされないまま国会を通過。臓器提供の条件は大きく緩和された。今後益々〝臓器狩り〟のターゲットは広げられる可能性も強い。「臓器移植法を問い直すネットワーク」は1月31日、東京都内で「新臓器移植法を問うシンポジウム — 小児の救命と脳死と移植 —」を開催。ジャーナリスト、医師、患者家族、研究者らが、改定臓器移植法と脳死臓器移植の危うい現状と問題点を改めて検証した。
シンポジウム
改定された臓器移植法への市民の関心は高く、会場は超満員になった。前席左から、司会の小松美彦(東京海洋大学教授)、近藤孝(南労会紀和病院長)、永瀬哲也(脳死に近い状態と診断された子どもの父親)、植田育也(静岡県立こども病院集中治療センター長)、岩澤倫彦(「ニュースジャパン/時代のカルテ」専任ディレクター)の各氏

シンポを主催した「臓器移植法を問い直すネットワーク」は、前身の「臓器移植法改悪に反対する市民ネットワーク」を母体に昨年秋に発足。脳死臓器移植に反対する市民、医療関係者、患者などの20団体が、呼びかけ団体・賛同団体となって事務局を構成。宗教界からは大本が呼びかけ団体として参加している。
 同ネット発足後初めての今回のシンポは、小松美彦東京海洋大学教授の司会で進められた。

善意だけでは済まされない問題がある

ジャーナリストの岩澤倫彦氏(「ニュースジャパン/時代のカルテ」専任ディレクター、調査報道ノーザンライツ代表)は、「救急と移植の医療現場を取材して」のテーマでスピーチ。「個人の立場から」として次のように語った。
 「最初は、子供の海外渡航脳死移植への募金が、報道によって視聴者から集まることがうれしかった。しかし、ドナー(臓器提供者)の姿が見えないし、必ずしも欧米並みでなくてもよいのではと思うようになった。
 実際に脳死患者を取材してみて、〝もし自分自身の子供が脳死になったら、本当に臓器を提供できるのか?〟という自問から、募金に協力してくれた人にも、同じ問いを向けると、〝考えた事がない〟〝むずかしい〟という答えが返って来た。
 そして、いったんは平坦になった脳波が戻った小児の例を経験した医師などにも出会った。小児の脳死判定のあり方や家族優先の臓器提供の問題などもある。善意で臓器提供した方の心情も分かるが、それだけでは済まされない問題のあることも、10年近い取材を通じて分かった」と述べた。

まず小児専用の救急医療施設の整備を

従来から、十分な救急医療体制を整備しないまま、脳死ドナーの増加を求める事への批判は強い。この点について、静岡県立こども病院小児集中治療センター長の植田育也氏(米国小児科認定医、米国小児集中治療専門医、日本集中治療医学会専門医)は、「小児の救命救急・集中治療の現状と課題」のテーマで話した。
 植田氏は、1歳から4歳までの子供の死亡率の高さが、日本は主要先進国中、アメリカについで2位で、他殺による死亡を除くと1位であることなどを指摘。その背景には、この年齢層の小児に必要なPICU(小児専用の集中治療室)の整備の遅れがあることを指摘。日本にはまだ4カ所しか24時間対応のPICUはないという。
 そして、愛知県からドクターヘリで搬送されて来た、心肺停止状態の3歳児が静岡県立こども病院のPICUで蘇生した実例などを説明。
 「日本では小児患者に最良の救命医療が尽くされていないのが現状だ。しっかりした救命医療が確保されないままでの臓器提供には問題がある」と、最優先の課題としてPICUの整備普及を訴えた。

脳死状態の子供も皆の心に光を与えてくれる

 脳死臓器移植の推進は、現在脳死状態や植物状態にある患者、重度の障害者などの命を脅かし、臓器が狙われる。2007年5月には、脳死移植の推進派リーダーたちも名前を連ねる「尊厳死の法制化を考える議員連盟」が、「臨死状態における延命措置中止等に関する法律案要綱(案)」を公表している。
 脳死に近い状態と診断された子供を持ち、「人工呼吸器をつけた娘と暮らして思うこと」のテーマでスピーチした永瀬哲也さんは、「脳死について何も知らなかった当時、親としてできることは何でもしたいという思いから、この子も臓器提供しないといけないとも思ったが、温かい体から動いている臓器が取り出せるのか疑問に感じた」と話す。
 そして、「私は娘が痛々しいと思ったことはなく、妻と子供、家族三人で穏やかに過ごせていることに幸せを感じている。しかし、〝脳死は人の死〟という意識が社会に広がれば、周囲が私たち家族を見る目も変わるのではないか。とにかくより多くの臓器を取り出したい、移植を進めたい者たちの暴走に怒りを感じる。
 重い障害があっても、周囲に人間の生命力のすばらしさ、勇気と希望を与えてくれる。生きている意味がはっきりとある。私たちにその光を受ける気持ちがあれば、脳死状態の子供でも、皆の心に光を与えることができる」と訴えた。

脳死の科学的根拠は すでに破綻している

「脳死は人の死」という科学的根拠がすでに破綻していることは、国内外の専門家の指摘する所だ。「脳死判定の非科学性」のテーマで話した、脳外科医の近藤孝氏(南労会・紀和病院長、日本脳神経学会専門医、日本救急医学会専門医)は、日本の脳死判定基準が緩和されてきたプロセスや現行基準の矛盾点を詳しく解説。
 「現在の脳死判定基準は、〝脳死は慢性化しない〟としているが、長期脳死患者の存在がこれを覆している。また、〝脳死〟とは〝身体各部を統合する機能が不可逆的に失われた〟状態だという。しかし、長期脳死患者が生存できているのは、脳に身体各部を統合する機能が残っているからではないか」と指摘した。
 また、「費用対効果、医療経済の視点から、ケアにかかる費用が大きいから、脳死患者は生き続けるよりドナーになればいいという考え方は、レシピエント自身をも圧迫することになる。同じ論理から、お金のかかる重症患者をなぜ臓器移植で生かす必要があるのか、という批判も生まれるのだから」とも。
 市民ネット事務局長の川見公子さんは、「厚労省の作業班からは、現在は対象から除外されている知的障害者も臓器提供者にする案が出され、親の虐待で死亡した子供の除外も見直すべきという意見も出ている。こういうドナー対象をどんどん広げる流れの中で、人の命や人権がしっかり守られていけるよう、さらに議論を深めていきたい」と結び、今後の活動に参加を呼びかけた。

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